介助用車いす


     



移動に必要な操作を介助者が行う車いす。国産品では軽量・収納性を目的にしているものが多い。自操式を共用することがあるが、介助専用では通常、ハンドリムはなく、軽量性を重んじる場合には小さな車輪を使用する。介助者用のグリップの部分にブレーキレバーが付いていることが多い。

介助用車いすを分類すると、次のようになる。
1.自操できないタイプ
車輪まで手が届かない程度に車輪径が小さいか後方にあり、本人が車いすの操作はできない。我が国独特のタイプである。
2.自操用車いすに介助者用グリップをつけたタイプ
段差越えや乗り心地の点で「自操できないタイプ」に比べ優位だが、重量や大きさの点では大きくなる。本人の上肢の力で車輪をわずかにでも回すことができれば、屋内での短い走行や方向転換程度は可能となることがある。
このタイプの車いすについては、基本的には「自操式車いす」を参照。
3.姿勢変換機能がついているタイプ
「姿勢変換機能付き車いす」に記載。姿勢変換や移乗介助がしやすいように、各部の調整が簡単にでき、脱着できる部分が多いものがある。
 
車いすを選択する際に必ず考えなければならないことは、座位保持、移動、移乗の3点である。この3点について、本人の身体機能、介助者の能力、住環境、他の福祉機器との適合を考慮して選択することが大切である。
選択の過程において、相反する要因が絶えず生じるので、選択要因の優先順位を考慮する。車いす以外の解決策(住宅を改造する、本人の身体機能を改善する、ヘルパーを導入するなど)も同時に考慮する。

【座位保持機能】
1.座っていられないときや姿勢が崩れやすい場合は座位保持機能を重視する。ここで記述する方法でも姿勢が崩れる場合は、姿勢変換機能付き車いすの適用を考える。
2.仙骨座りの防止:臀部が前方へずれ、仙骨座りになりやすいときには、シート角度が大きいものを選択したり、座骨が前方に滑りにくいクッションを使用する。ただし、シート角度が大きくなると、移乗動作のとき臀部が前方へ出にくいなどの影響を受けることがある。
3.クッション:シートクッションを使用する場合は、アームレストや背もたれの高さに影響するので、クッションの収縮を考慮して、これらの高さに適したものを選択する。できれば、調節式のアームレストや背もたれが望ましい。
褥瘡がある場合や褥瘡ができる可能性が高いときは、除圧効果の高いクッションを使用する。また、圧力が一点に集中せずに臀部から背中全体で体重を分散するような良い姿勢を取ることを考える。
4.シート−フットレスト長の調節:臀部と大腿部が均等に座面で支えられるように調節する。
5.シート幅:臀部の幅に比べシート幅が広過ぎると、体幹が左右に倒れやすくなる。シート幅が適切であっても体幹が倒れやすいときには、腰の両脇にクッションなどを入れたり、体幹サポートやベルトなどを付けるなどの方法がある。
6.リクライニング・ティルティング:体幹バランスが不良の場合は、リクライニング式あるいはティルティング式を選ぶ。

【移動】
1.車いすの大きさ:屋内使用の場合は、環境との適合に注意する。優先項目があって車いすを小さくできない場合には住宅改造も考慮する。
2.キャスター:屋内使用の場合は、小さいもの(4〜5インチ)でもよい。小さいものほど方向転換時のキャスター回転半径が小さく、キャスターが家具などにあたりにくい。屋外使用の場合は、キャスター径が大きいものほど小さな段差を通過しやすく、乗り心地が良い。6〜7インチのものを選択することが多い。
3.アームレスト:テーブルや洗面器などに近づきやすくするためには、デスクタイプのものを選択することがある。移乗時にアームレストの先端を支えに利用するときは、家具の変更を考えるなどよく検証することが必要。
4.後輪(駆動輪):車輪径が小さいほど軽量となるので、軽量を重視する場合には径の小さいものを選択することがある。
乗り心地やキャスター上げ介助のしやすさを重視する場合は大きい径のもの(20〜24インチ)を選択する。
屋内使用で本人が少しでも動かすことができる場合は、上肢の到達範囲を考慮して車輪径の大きいもの(20〜24インチ)を選択する。
5.ブレーキ:車軸部で制動するドラムブレーキ、タイヤに押し付けて制動するタイプのブレーキなどがある。制動ブレーキはドラム式が適している。
6.グリップ:介助者の腰の高さのものを選択すると押しやすい。高さ調節機能が付いているものがある。
7.ハンドリム:一般的に介助用車いすにはハンドリムは付いていない。本人が少しでも動かすことができる場合は、適切な車輪径のものでハンドリムが付いたものを選択する。

【移乗】
1.アームレストを持って立ち上がるときには、脱着式や可動式のものの場合はしっかりした(強度の高い)ものを選択する。
2.座ったまま臀部を横にずらして移乗する場合は、介助移乗でも自立移乗でもアームレストは脱着式や可動式のものを選択する。
3.フットレストは、スウィングアウトもしくは脱着式のものを選択すると、ベッドなどに近づきやすく、移乗させやすい。
4.移乗するときに、ブレーキレバーが邪魔にならないものを選択する。
5.移乗用リフトを使って車いすに移乗させる場合は、吊具の脱着のため、車いすの座幅は臀部の両側に手の平が入る程度のゆとりがあることが望ましい。この場合にはアームレストは固定式でも良い。
 
【平地走行】
介助者が左右のグリップを進行方向に押したり引っ張って駆動する。

【坂道・スロープでの操作】
坂道を昇る場合は前進で昇り、下りは急な場合には後ろ向きに降りる。制動ブレーキ(介助者用ブレーキ)がついている場合は、降りるときにはブレーキ操作で速度を調節しながら降りる。
道路で片流れしやすいところでは下側の握り手を強く押す。

【段差を昇るとき】
ティッピングレバー(図1)を足で固定し、握り手を後方に引いて、前輪を上げる(キャスター上げ)。
同時に車いすを前方に押して、前輪が段を乗り越えるようにする。
後輪が段に接触したら、前輪を静かに降ろし、後輪が段を乗り越えるように押し上げて段差を乗り越える。

【段差を降りるとき】
後ろ向きに降り、後輪が下に接地してから前輪を上げ、段差を降りきるのを確認した後、ゆっくりと前輪を降ろす。

【溝越え】
キャスター上げをして、前輪が溝を越えたら、静かに前輪を降ろす。次に後輪をゆっくりと少し持ち上げ、溝を越えたのを確認してから降ろす。

【砂利道や踏み切り】
前輪を上げたまま進むと押しやすい。

【車椅子を折りたたむ】
一般的な車いすは、左右のフットレストを上方に持ち上げ、バックレストが折りたためるものは折りたたんでおく。次に、シートの中央を持ち、上方に引き上げ、左右のフレームを中央に押さえる。
ただし、車いすによってこれとは異なる場合があるので注意が必要。