支援者としての基本的な考え方
福祉用具は意欲と主体性を軸にした
支援アプローチ
○ 福祉用具で一人ひとりの「暮らし」を支えるために
- 福祉用具は、利用する人一人ひとりの暮らしを支える道具です。時には一度失ってしまった暮らしを再構築するための道具でもあります。どのような暮らしを支えるのか、どのような暮らしを再構築するのか、福祉用具を提供する支援者は、福祉用具を利用する本人の目指す「暮らし」を理解することがとても大切です。
- 「暮らし」とは、単に入浴や排泄、移動などの動作や活動を行うことではありません。「暮らし」とは、生きることの「目的」や「幸せ」など、人それぞれが「人生」に求める価値を全うする生き方を意味します。一方で「暮らし」は日常生活で繰り返し行われる動作や活動を手段として構築されています。相談の多くは「不自由となった動作や活動を解決するための福祉用具の活用」という視点で持ちかけられるものですが、支援者は常に「福祉用具で実現したい暮らし」を見据えた対応が求められます。
- 家庭であっても施設であっても、介助者の存在とそのかかわりは本人の「暮らし」に大きな影響を与える要素です。介助者の過剰な負担が本人の暮らしに悪い影響を与えることのないよう、家族や介護職員など介助者も含めた広い視野での支援が大切です。
○ 「している活動」と「できる活動」との違いを意識した支援
- 本人が現在の生活で行っている活動が「している活動」です。健康な時には特に福祉用具なども使わずに一般的な環境の中で自然と行っているもので、「実行状況」とも言われます。麻痺や筋力の低下などで思うようにならない状況での活動のありようも「している活動」であり、「一部介助」「全介助」などの視点で評価されます。
- 環境を調整し必要な支援があれば可能な活動が「できる活動」で「能力」とも言われます。健康な時には一般的な環境の中でも「している活動」と大きく異なることはありませんが、病気などで健康状態が崩れ麻痺などの心身機能に障害を受けると「できる活動」と「している活動」とは乖離(かいり)します。「できる活動」は「何かにつかまればできる」「できない」などの視点で評価されます。
- 「〇〇ができない」という訴えの多くは「実行状況」での不自由さを反映したものです。それは現在の環境の中での状況であり、環境を調整し必要な支援を提供することで「できる活動」に変えていくことができる可能性があるという理解に立ちます。
- 「できる活動(能力)」は潜在的です。本人や家族は一般的な道具や住環境の中での生活が「あたりまえ」であり、福祉用具などの知識も限定的です。支援者にとっても幅広く深い知識や経験が求められることが多くあります。支援者は福祉用具個々の機能や特徴を理解することはもちろんですが、より多くの事例に触れ、「福祉用具の力」を知ることが大切です。
○ 導入する福祉用具との適合を確認する要素
- 福祉用具の利用は本人だけではなく、介助者の操作や事前の準備を必要とするものも多くあります。また、新しく導入する福祉用具は、既存の住環境と適合しなければ効果を発揮させることはできません。福祉用具などにより生活環境を整備する支援では、住環境や家族の生活、経済状況などの要素との適合を図ることも大切な視点です。
- 介助者との適合
移乗用リフトなど介助者が手技や操作方法を習得して活用する用具や、スロープの傾斜のような介助者の体力との関係で利用が制限されるものなど、福祉用具には理解や記憶力、筋力などの介助者の心身機能との適合が必要なものが多くあります。
- 介助者以外の人との適合
家庭内で利用する福祉用具の存在は、同居する家族の生活にも影響を及ぼします。玄関に設置する床置き式手すりや浴槽に設置する入浴用リフトなど家族が共有するスペースでの利用には、同居する家族が許容し理解を得ることが必要になります。
- 住環境など使用環境との適合
福祉用具導入の前提となる住環境なども千差万別であり、個別性の大きな要素です。入浴補助用具は浴室や浴槽の広さや床の素材、ドアの形状などに影響を受け、車いすや歩行器も、廊下の広さや畳など床の素材(屋外であれば路面状況)により使い勝手は大きく異なるなど、住環境との適合は不可欠です。使用環境には「暮らし」の目的を達成するための移動距離や時間帯などの視点も必要です。
- 経済状況との適合
福祉用具や住環境整備にかかる費用を負担するための経済状況も適合の要素であり、その個別性を前提にして可能な経済的負担の中で支援することが大切となります。これは一律に安価であればよいわけではなく、許容できる経済的な負担とその負担によって得られる生活の自立や利便性の評価は、それぞれのケースで異なります。時には介護保険制度のような公的給付の枠を超えた支援プランが最適であり、提案・検討が必要な場合があります。
○ 自信と意欲を推進力とする好循環を目指す
- 福祉用具など物理的な環境からの支援アプローチは、生活圏の拡大を実現し支援者も驚くほどの生活の変化をもたらすことがあります。その原動力となるのは、小さなことでも「できること」が増えていくことへの自信であり、それによって高められる「意欲」です。
- 人的な介助は主体性の維持や意欲の芽生えの点で福祉用具による支援とは大きな違いがあります。介助は本人の動作や活動のできないことを補完することには長けてはいますが、嗜好やライフスタイルを制限することで「暮らし」へのマイナスの影響も大きく、依存度が高まると人生レベルでの課題の解決からはかえって遠ざかってしまうこともあります。福祉用具による支援は介助者の介在を最小限にできる可能性があります。
- 「福祉用具の利用で、できることまでできなくなる」と言われることがあります。「歩ける人が車いすを利用すると歩けなくなる」というものです。もちろん「歩けるかどうか」は大切なことですが、「暮らし」を構築する要素として十分に機能する「歩ける」なのかどうかが支援の中では重要です。「暮らし」には「歩く」ことの目的があり、その目的の達成につながる支援が「意欲」につながります。
- 適切な福祉用具の利用は、質的にも量的にも活動を向上させ、生活を広げます。生活の広がりによって意欲が芽生え、常に次の展開に期待や希望がもてることは主体的な生活につながります。
